日本の良いもの・美しいもの
花鳥風月日記
◆この文章は、「ラシサ」2000年7月号に掲載されたものです。
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文月 (七月)
びいどろ、ぎやまん
文・イラスト HANA


夏になると

 新緑が濃くなり、窓からの陽射しも「初夏」から「夏」を感じさせるほどに強くなってくると、家のあちこちにガラスの小物を飾たくなります。

 今年は、玄関には濃いコバルトブルーのガラスびんと小さな一輪挿し(燭台のような形で台の部分がやはり濃いブルー)を。お風呂場の窓辺には、透明なガラスコップにハイドロボールと「おはじき」を混ぜたものにアジアンタムを植えて置いてみました。

 特にお気に入りで毎年使うのは、海で拾ったガラスのかけらです。割れたコーラの壜などのかけらが、何年もの間波に洗われて角が丸くなり小石の様になったものだと思います。表面は曇りガラスのようにざらっとした感触。白いもの、薄い水色、グリーン、色も形もいろいろ、素朴な美しさです。これだけ角がまるくなるにはいったいどのくらいの時間がかかったのでしょう。貝殻や小石といっしょにお皿に入れて飾りました。

 『夏だから涼しげにしよう』と頭で考えてそうするわけではなくて、むしろ『体が涼しげなものを要求する』といった感じで、自然にこのようにしてしまいます。

 そういえば、一昨年の夏に買った、気泡いりの琉球グラス。有楽町にある「わしたショップ」という沖縄物産の店で見つけたのですが、最初は欲しいと思いつつも買わずに帰ったものの、どうも忘れられなくて、「やっぱり買おう」とまた店に行くと売り切れていました。2週間ほどでまた入荷すると言われ、3回目に行ってやっと手に入れることができたという思い出があり、愛着もひとしおです。お気に入りなのだから、いつでも使えばよさそうなものですが、やはり「これは夏にこそ使うべき」という気がしています。

 ガラスは現在では生活の中になくてはならないもので一年中身近にありますが、風鈴、金魚鉢、かき氷のうつわ…日本のガラスで連想するものは、やはり『夏の風物詩』ですね。

日本らしいガラス

 また、日本のガラスというと、「びいどろ」、「ぎやまん」という言葉を思い出します。これはどちらも江戸時代にガラスのことをこう呼んでいでいたというだけで、こういう種類のガラスや技法などがあるわけではありません。吹きガラスなどを「びいどろ」、彫刻を施したしたもの(カットグラス)を「ぎやまん」と呼んだといわれています。それ以前は「瑠璃(るり)」「玻璃(はり)」などと呼ばれたそうです。源氏物語や枕草子にもこの言葉が登場します。

 「びいどろ」「ぎやまん」「瑠璃」「玻璃」、いずれも外国語が訛ったものらしいのですが、どれもガラスの美しさにぴったりの、神秘的なムードの漂う響きに思えます。

 正倉院の御物にもあるように、日本にガラスが渡来したのはかなり昔のことですが、一般庶民に親しまれるようになったのは江戸時代以降のようです。それまで南蛮渡来の貴重品だったガラスは、庶民のものになったことによって、より日本らしい意匠を与えられるようになったのです。

 カットグラスのことを日本では「切子(きりこ)」と呼びます。薩摩切子、江戸切子が有名です。江戸切子は現在も技術が受け継がれていますが、薩摩切子のほうは「世界のガラス工芸史に名を残す」といわれる程、高度なものであったにもかかわらず、残念ながら途絶えてしまっています。

 カットグラスの技術はイギリスから入ってきたものですが、器の形や模様は日本風にみごとアレンジされて、日本独自の世界を生み出しています。カットのしかたも微妙に違い、外国のものは鋭角的なのに比べ、日本のものはカットの角度が浅く、手に持った時「柔らかくなめらかな感じ」なのだそうです。

大正ロマンガラス

 明治・大正期には大量生産が可能になったこともあって、日常の器としてのガラスがたくさんつくられるようになりました。

 縁から下方に向かって淡い乳白色のぼかしをいれ、さらに青や赤の縁どりをした氷コップ。淡い水色や桃色を使い、縁をレースのようにひらひらと波打たせたランプのほや…。「大正ロマンガラス」などと呼ばれている、とろりとした風合いのガラスは大好きで(私はひとつも持っていませんが)、頭に思い描いているだけでも優しい気持ちになってきます。

 明治・大正期のガラスには、器の裏に「ポンテ」と呼ばれる跡があります。これは「宙吹き」という技法でつくられた証拠です。吹きガラスというのは、ガラス器づくりの原点ともいえる技法で、ご存知のように、どろどろに溶けたガラスの素を筒の先につけて、風船のようにぷーっと膨らますというものです。

 同じ吹きガラスでも、型に入れて膨らますやり方もありますが、「宙吹き」は、名前のとおり空中でくるくる回しながら形をつくっていくものです。形がだいたいできたところで、先の部分(底になる部分)に、ポンテ棒というガラスの小さな塊をつけた棒を固定し、その後の作業をやりやすくするのです。ポンテ棒は後で切り離しますが、跡が残ります。これが「ポンテ」です。

 もちろん、現代の作品でも宙吹きでつくられたものは、裏にポンテがあります。お手持ちのガラス器、ひっくり返してポンテがあれば、それは宙吹きガラスというわけです。

ガレは日本的?


 ところで、ガラス工芸といえば、世界的に有名なのはエミール・ガレというフランスの作家ですが、この人は日本の伝統工芸を勉強していたのだそうで、当時のヨーロッパではあまり関心をもたれなかった、草や木といった自然をモチーフにしたのが特徴です。日本人にガレのファンが多いのも、日本人的な感覚が作品に感じられるせいではないかと言われています。

 でも私は個人的には好きではありません。日本的ともあまり思えません。どうしてかな?色使いでしょうか?なんだかどろどろして、暑苦しい気がしてしまいます。少なくとも夏には使いたくないですね。やっぱりガラスは涼しげなのがいいな。

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