香を聞く〜香道について

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香道について
香を聞く
香の聞き方
歴史
流派
六国五味(りっこくごみ)
銘香(めいこう)、名香(めいこう)
六十一種名香
組香のルール
 1.宇治山香(うじやまこう)
 2.小鳥香
 3.源氏香 源氏香之図
その他の組香
匂いで文学のイメージを表現
参考文献
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香道について (
茶道や華道は、大体どのようなことをするのか知っていても、香道というのは何をするものか、あまり知られていないのではないかと思います。もしかすると、香道なんて初めて聞いた、という方もいるかもしれません。

簡単に言えば、香木をたいてその香りの「当てっこ」をするのですが、茶道が単に「お茶を飲む事」ではないように香道も「道」と称するからには、作法やしきたりがいろいろあって奥が深いものです。

かく言う私も、全くの門外漢で、香席を体験したことはありません(*)。でも昔からずっと憧れています。私が香道のどんなところに惹かれるのかというと、「組香」の決まり事やその名前です。組香というのは、2種類以上の香を使って一つのテーマを表現し、鑑賞するものです。テーマはおおむね、古典文学に基づくものです。

私のホームページの他のコーナーもすでにご覧くださっている方は、私が日本的な事物の「ネーミング」に惹かれているということにお気づきになっているかもしれません。色の名前、模様の名前、髪型の名前のつけ方等に、日本らしい奥ゆかしさ、優雅さ、遊び心、季節感などが大変よく表現されていると思うのです。名前から喚起されるイメージ。そのイメージの世界で戯れるのが好きなのかもしれません。そんな私を惹きつける魅力が、香道にはあります。

これを書いてから3年後の1999年12月に機会あって「源氏香」を体験しました。その体験談はこちらに)

香を聞く (
香を「嗅ぐ」と言わず「聞く」と言うのは、匂いに問いかけをして、その答えを「聞く」という心なのだそうです。「味わい試す」というニュアンスがあるようです。
香の聞き方 (
上の絵の様に、左手の上に香炉をのせ、右手で香炉の口をおおうようにして、親指と人差し指の間から香を聞きます。鼻は人差し指に触れるくらいに近づけます。
歴史 (
8世紀ごろ上流階級の間で自分の部屋や衣服、頭髪などに香をたきこめる「空薫物(そらだきもの)」の風習が生まれ、その流行に従って薫物合(たきものあわせ)という遊びが盛んになりました。二種類の薫物(はじめ練香、のちに香木)を調合して、その技術や匂いの優劣を競うものでした。それが発展し、組香が生まれました。そして作法やしきたりが整い、道具も完備され、「香道」という形になったのです。
流派 (
現在まで続いている主な流派は、御家流、志野流の2派です。
作法や道具が少し違います。
六国五味(りっこくごみ) (
鑑賞の基本となる、香木の分類法です。

六国−六つの木所(きどころ=香木の原産国)による分類。
   伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真南蛮(まなばん)、
   真那加(まなか)、佐曾羅(さそら)、寸聞多羅(すもたら)。

五味−匂いの性質を味の感じに置き換えたもの。
   辛(しん)、甘(かん)、酸(さん)、鹹(かん=しおからい)、苦(く)

銘香(めいこう)、名香(めいこう) (
香道で用いる香木には銘のつけられているものが多く、これを「銘香」といいます。人名によるもの(例:楊貴妃)、花の名によるもの(例:白梅)、物語や和歌に関連のあるもの(例:須磨)、保管されていた場所によるもの(例:法隆寺)など、いろいろあります。銘香の中でも特に優れたものを「名香」と言います。
六十一種名香 (
名香中の名香として、香人達の間で貴重視されているものです。参考までに名前を列挙しておきます。(どんな香りか想像できますか?)

法隆寺、東大寺、逍遥、三芳野、紅塵、枯木、中川、法華経、廬橘、八橋、園城寺、似、富士煙、菖蒲、般若、楊貴妃、青梅、飛梅、種子島、澪標、月、竜田、紅葉賀、斜月、白梅、千鳥、法華、老梅、八重垣、花宴、花雪、名月、賀、蘭子、卓、橘、花散里、丹霞、花形見、明石、須磨、上薫、十五夜、隣家、夕時雨、手枕、晨明、雲井、紅、初瀬、寒梅、二葉、早梅、霜夜、寝覚、七夕、篠目、薄紅、薄雲、上馬。

組香のルール (
香席の詳しい手順や作法は、ここでは説明をしませんが、「組香とは、2種類以上の香を使って一つのテーマを表現し、鑑賞するもの」という説明だけではどこが面白いのか、さっぱりわからないと思うので、いくつか例をあげて簡単に説明します。

1.宇治山香(うじやまこう) (

喜撰法師の「我が庵は都のたつみ鹿ぞ住む 世を宇治山と人はいふなり」という和歌をもとにしたもので、五種類の香木を用意し、はじめに一通り順に香炉でたいて出席者に匂いを聞かせます。これを試香(こころみこう)といいます。次が本香で、香元がその中の一種類を選んでたき、それが試香の何番目のものかを当てます。答えは各自、半紙(名乗紙という)に筆で書きます。このとき「一番目」とか「二番目」とか書くのではなく、

 1番目と同じだと思ったら、和歌の1句目の「我が庵は
 2番目      〃      2句目の「都のたつみ
 3番目      〃      3句目の「鹿ぞ住む
 4番目      〃      4句目の「世を宇治山と
 5番目      〃      5句目の「人はいふなり」と書くのです。

香席では点前(茶道と同じで、香をたく一連の動作を「てまえ」という)をする香元、連衆(客)の他に、執筆と呼ばれる記録係がいて組香の名前、使用した香木、出席者の名前とその答え、採点、証歌(もとになった和歌)などを書いて記録します。名乗紙を使わず、香札を使用する組香もあります。

2.小鳥香 (

五種類の香を二組作り、一方から一包み、他方からも一包み取り出します。取り出したものを入れ替え、どちらか一組を聞きます。もし、入れ替えたものが同じものなら、元どおりで五種類聞くことになりますが、他の場合は五つのうち二つは同じものになります。同じものが何番目と何番目にあるかを当てます。答えは鳥の名前で書きます。鳥の名前のなかで、同じ仮名(下の太字の部分)のある位置が、同じ香という訳です。

 番目と番目なら、「ももちどり」
 番目と番目なら、「ほととぎす」
 番目と番目なら、「みそさざい」
 番目と番目なら、「あをしとど
 番目と番目なら、「しらた
 番目と番目なら、「からひ
 番目と番目なら、「ひり」
 番目と番目なら、「あさ
 番目と番目なら、「れい」
 番目と番目なら、「ろつみ」
 同香なし(元どおり)なら、「よぶこどり」

3.源氏香 (

五種類の香を各五包、合計二十五包用意し、その中から任意の五種類を取り出します。五つのうちで同じものが、どこにあるかを当てるのですが、組み合わせの種類が多いのでこれを「香之図」と呼ばれる図であらわすのが特徴です。

縦の五本の線が香の順番(右が一番目)を表し、同じ香同士を横線でつないであらわしています。五十二種類の組み合わせがあり、それぞれに源氏物語の各帖の名前がついています。(源氏物語は五十四帖。最初の「桐壷」と最後の「夢浮橋」の図は無い。)

例えば1番目と2番目が同じなら、(空蝉)
1番目と3番目が同じで2番目と4番目も同じなら、(花散里)。

日本の伝統文様に「源氏香」というものがありますが、それはこの香之図をモチーフにした模様なのです。着物や帯の柄で、目にした事があるかもしれません。わたしが香道を知るきっかけとなったのも、「源氏香之図」でした。

その他の組香 (
三草香、月見香、達香、郭公香、当座香、星合香、菊合香、雉子香、五月雨香、呂律香、空蝉香、竹取香、四季三景香、四季香、花月香、連理香、など。
匂いで文学のイメージを表現 (
組香では使う香木の数や、試香の有無、たく回数、答えの書き方などが、決っていますが、どんな香木を使うかは香元の裁量にまかされます。証歌のどの言葉にどの種類の、何と言う銘の香をつかうかで、その歌をどう解釈しているかが表現される訳です。古歌だけにかぎらず、自分の感情を和歌で表しそれを組香として創作することもあります。
最後に
以上、私の理解不足の点もあるかもしれませんが悪しからず。

参考文献 (

  「香道への招待」 (北小路功光・宝文館出版)
  「香道・歴史と文学」 (三條西公正・淡交社)

そのほか、日本の香・香道に関する本



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