毎日がお遍路

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2004年 HANAの「歩き遍路日記」  − 3日目
11月21日(日)
04:00  起床 なぜか早く目がさめてしまう。足が痛い。全体にこわばってる感じ。バンテリンをぬり、マッサージ、ストレッチ。大丈夫かなあ。

もともとの予定では27番から28番の間の40kmも全部歩くつもりだった。でもそうすると私の足ではそれだけで2日かかってしまうので、今回の日数では28番までで終わりになってしまう。そこで、出発前日くらいになって急に『そうだ、この40kmを電車にのってしまえば、あとはずっと6〜7kmくらいの距離のところが続くので、30番くらいまでは行ける』と思いついた。

そうするにしても、ここから先は、疲れもたまり、足もどんどん痛くなってくるかもしれないので、体調と相談しながら、無理せずに行きたい。

07:00 朝食
08:00 出発 宿代を払うと、宿のおばちゃんが「これで何か飲んで」とお接待200円くれる。納め札を渡す。外まで見送りにでてくれる。親戚のおばちゃんのうちに泊まって帰るような感覚。

「向こうに見えている山の上が27番札所。おばちゃんは行ったことがないけど、あんな山の上にお寺を作った昔の人はえらいなあといつも考える」と言ってた。

27番・神峯寺(こうのみねじ)は、「真っ縦」といわれる難所だ。登るだけでも大変そうだ。作った人の苦労までは考えなかったな。

09:00 うらぶれた海沿いの集落のようなところで、放し飼いの犬にほえられ(よぼよぼの老犬だからそんなに怖くはないけど)、『いざとなったら、この杖が武器になるな』なんてとっさに思う。やっぱり金剛杖って役に立つんだな。土佐の犬って気性が荒いのかな、よく吠えられた。

小さな滝のあるお不動様で休憩。今日はやはり27番のあと電車で移動し、28番のあるあたりで宿泊することに決めて、宿に電話する。28番のそばの旅館はちょっと高かったので、すこし離れたところのビジネスホテルの素泊まりにした。

10:00
いよいよ「真っ縦」の坂道を登り始める。距離は約3km。平地なら30分だが、上りは時間がかかる。途中で会った地元の人に「50分はかかるよ」と言われる。(結局私は1時間半もかかってしまったのだが)

下のほうは車道しかなくて、上のほうになってから、車道のくねくねを突き抜ける形で「へんろ道」がある。数メートルごとに小休止、小休止。暑いし、ペットボトルのドリンクも残り少なくなってきて心細い。

旅って人生の縮図だな、などと考えていた。



11:30 27番・
神峯寺
(こうのみねじ)
門前の駐車場の脇にある売店に、自動販売機とベンチがあったので、荷物をおろし、飲み物を買い一息入れる。天気は良くて陽射しは暑いけど、山の上の空気はちょっとひんやりして、まさに「生き返る」感じ。

団体さん(20人弱)が駐車場から本堂のほうへ上がっていった。

売店のおじさんが「きつかったやろ。荷物ここに置いていってもええよ」と言ってくれたけど、この小休止ですっかり立ち直ったので荷物をまた背負って先へ行く。その先も階段がある。

山門を入ってから、また急な階段。そこを上り始めると、真中の手すりをはさんで反対側を年配の女性が降りてきた。

きっと、私が山を上ってきたのを後ろから車で追い越して行った中の一人なのだろう。私を見つけてうれしそうにニコニコ降りてくる。私は私で、その人が金剛杖ではなく、普通の杖を持っているのを見てはっとして、どちらからともなく歩み寄って、階段の真中で立ち止まってあいさつを交わす。

「足がお悪いのに階段は大変ですね」と私が言うと、「実は人工股関節なの」という。それで私はびっくりして、「うちの姑も、昨年、手術をしたんです。前回は徳島を一緒に回ったのだけど、足を怪我をしてしまったので“もう、行かれないかも”と言っている」というような話をすると、その人は6年前に手術して、その後、八十八ヶ所を2回まわっているという。

「痛いときは杖を両手について歩くときもある」といって、確かに杖2本持っていた。もちろん、全部を歩くわけではなく、車でなのだろうが、それでも四国の札所は、ここのように駐車場から本堂までの間も急な階段を上り下りしなければならないところが多いので、大変だと思う。

「お姑さんも、きっとまた来られるわよ。ぜひよろしくお伝えくださいね」と言ってくれ、手を握り合ってウルウルしながら別れる。その人は最初(山を上ってきた私を“元気みなぎる若者”とでも思って)「パワーをちょうだいね」と言ったけど、逆にこちらがパワーをもらってしまった。

その感動さめやらぬまま、本堂へ向かうと、さっきの団体さん(ほとんど全員が老人)と入れ違いになる。この人たちも私が上っているところをみかけたらしく、「あ、あの子だ」というような感じで口々に「えらいな〜」「早かったねえ」とか声かけてくれた。(早くなんかないんですけどね;)

本堂をお参りしたあと、大師堂へ行くと、またここで団体さんとすれ違う。すると、中でも一段と高齢そうなおばあさんが私のほうへつかつかと寄ってきて「ようお参りなさったなあ」などといってから、「お接待させてもらうわ」と、千円札(まだめずらしい新札)を「さんや袋」からとりだす。

「え、こんなにたくさん困ります」なあんて言っても、私のさんや袋にぐいぐい押し込んでしまう。もう一人の方も千円くださった。よく見れば、おばあさんは金剛杖ではなく錫杖をついている。この団体のお先達さんだった。なんと95歳!おばあさんの風貌は、「生き仏様」みたいなオーラを発していて、握手してもらいながら、また感涙。

昼食 さっきの売店にもどり、ちょうど昼近いので、ここでうどんを注文。店の壁に大きな菅(直人)さんのサインの前の席で、のんびり食べる。

13:00 下り 下りは早い。ひざが痛いけど、さくさく降りる。


13:40 唐浜駅
(とうのはま)
列車は一時間に一本。つぎは14:13。無人駅。ワンマン列車なので改札も何もなくそのままホームに上がる。

ホームの待合室で待っていたが、陽射しがきつくて暑い。それで、椅子ではなくちょっと日陰になったところの地べたにしゃがんでいたら、スーツ姿のおじさんが入ってきて、ばつが悪くてあいさつもしそこねる。

無愛想なヤツと思われてしまったなと思って、電車に乗り込むときには、とびきりの笑顔で『お先にどうぞ』のジェスチャーをすると「いや、どうぞどうぞ」と言って先に乗せてくれ、隣の席に座った。

「歩いて上まで上ってきたの?」ときかれ「はい」などと少し話したが、シャイな人なのか、その後は何も話さなかった。私も、話し掛けられれば話すけど、こちらから積極的に話し掛けるほうではないので、それきりだったが、同じ「のいち」駅で降りるとき、何も言わないけど、おじさんが私のほうを気にかけてくれているのがわかった。そして別れ際に「それじゃ、気をつけて」と言ってくれた。いろいろ言葉を交わさなくても、なんか、こういうのもいいな、と思った。優しさが伝わってきた。

15:40 28番
大日寺
今日は27番だけで終わりにして唐浜で泊まろうか、とか、唐浜から電車で「のいち」まで移動し、のいち駅周辺で泊まり、明日28番へ行こうか、とか考えたりもしていたけれども、結局今日中に28番をお参りできた。

境内に人は少なく、ゆったりとお参りできた。ここの本尊は大日如来。お堂の外で読経したのだけど、靴を脱いで中へ入ることができたので、お参りしたあとに中へ入ってみた。彩色のほどこされた、とても美しい仏様だった。

そして次に隣の大師堂で読経していると、背後でガラガラと大きな音。ふりむくと先の本堂の扉を閉めていた。拝観は4時までだったらしい。ラッキーだった。

朝のお寺もいいけど、こういうちょっと暮れた感じもいいよなあ・・・。

17:00 土佐山田駅前
ビジネスホテル
大日寺から1時間ほど歩き、ちょうど5時頃チェックイン。

素泊まり5250円のビジネスホテルだけど、フロントなんか結構豪華な感じで、久々に近代的な設備にほっとする。一日目からどんどん良くなってきた。でもそのくせ、夢から現実に戻ったみたいで、ちょっと淋しい気もする。勝手なものだ。

この2日の宿はボロいとかいうことよりも、プラバシーが守れないような環境というのが疲れた。

ビジネスホテルなら、風呂もトイレも部屋の中だし、鍵もしっかりかかるし、それがなによりほっとする。素泊まりだから、食事も、風呂もなにもかも、好きなときに好きなようにすればいいので気が楽だ。

部屋に入ると汗に濡れた服をバババーっと脱いで、荷物も広げ放題。でも、夕食は調達してこなかったので、一度外へ買出しにいかなければならないので、すぐ風呂には入らず、とりあえず洗濯をはじめる。階下にコインランドリーもあるようだが、使うほどではない。水洗いで汗さえ落とせば、あとは部屋に干しておけばエアコンで乾くだろう。万一朝になっても乾いていなければ乾燥機だけかけにいけばいい。

部屋の中に持参のロープを張って、洗濯を干したあと、買出しに出る。もうすっかり暮れていた。ホカ弁とビールを買う。

それから入浴して、食事。

連日20kmも歩いたら、宿に入ってバタンキューとなりそうなものだが、寝る前にやっておかねばならないことがあると思っていると眠くならないものだ。

特に日記はぜったいその日のうちに書いておきたい。次々いろんなことが起こるから、翌日になったら、前の日のことが薄れてしまうからね。あと、翌日の段取りも決めなくてはならないし、カメラの充電を忘れるとまずいし、足のマッサージやストレッチもやらないと後にひびきそうだし、やることがいっぱいあるのだった。
10:00 就寝
(本日の歩行距離:20km)
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